アーク溶接、TIG溶接、MIG溶接の違いとは?

最終更新日時: 2024/05/08 15:52

溶接は、金属部品を接合する重要な技術であり、様々な溶接方法が存在します。その中でも、アーク溶接、TIG溶接、MIG溶接は、製造業界で広く使用されている主要な溶接方法です。この記事では、これらの溶接方法の原理や特徴、適した用途などについて詳しく解説し、それぞれの違いを比較していきます。

アーク溶接

アーク溶接は、電極と母材の間に発生するアーク放電の熱を利用して、母材を溶融・接合する溶接方法です。電極には、被覆アーク溶接棒が使用されます。被覆剤の種類によって、イルミナイト系、ライムチタニヤ系、低水素系などに分類されます。アーク溶接の特徴は以下の通りです。

  • 比較的簡単な装置で溶接ができ、初期コストが安い
  • 風雨の影響を受けにくく、屋外での作業に適している
  • 厚板の溶接に適しており、深い溶込みが得られる
  • 溶接速度が遅く、熟練技術者の技能が求められる
  • スラグ(溶融した被覆剤)の除去が必要で、作業性が悪い
  • 溶接姿勢が限定され、全姿勢溶接が難しい

アーク溶接は、建築や土木、造船、重機械などの分野で広く使用されています。特に、現場での溶接作業や、厚板の溶接に適しています。

TIG溶接

TIG溶接は、非消耗式のタングステン電極と母材の間に発生するアーク放電の熱を利用して、母材を溶融・接合する溶接方法です。溶加材を別途供給し、シールドガス(アルゴンなど)で溶接部を大気から保護します。交流または直流の電源が使用されます。TIG溶接の特徴は以下の通りです。

  • 高品質な溶接が可能で、美しいビード外観が得られる
  • 薄板の溶接に適しており、精密な溶接が可能
  • 様々な材料(ステンレス鋼、アルミニウム、チタン、銅など)の溶接に適している
  • 溶接速度が遅く、熟練技術者の技能が求められる
  • 装置が高価で、初期コストが高い
  • 溶接部の清浄度が重要で、入念な前処理が必要

TIG溶接は、原子力、航空宇宙、化学プラント、食品機械などの高品質な溶接が要求される分野で使用されています。また、薄板や異種材料の溶接、アルミニウムやステンレス鋼の溶接に適しています。

MIG溶接

MIG溶接は、消耗式の溶接ワイヤ(電極)を自動的に供給しながら、アーク放電の熱で母材を溶融・接合する溶接方法です。シールドガス(アルゴンや炭酸ガスなど)で溶接部を大気から保護します。直流電源が使用され、電極がプラス極性となります。MIG溶接の特徴は以下の通りです。

  • 溶接速度が速く、高能率な溶接が可能
  • 自動化・ロボット化に適しており、生産性が高い
  • 厚板から薄板まで、幅広い板厚の溶接に適している
  • 様々な材料(軟鋼、ステンレス鋼、アルミニウムなど)の溶接に適している
  • 風雨の影響を受けやすく、屋外での作業には不向き
  • スパッタ(溶接時に飛散する金属粒子)の発生が多い

MIG溶接は、自動車、機械、建設機械、鉄骨構造物などの分野で広く使用されています。特に、大量生産や自動化が求められる場合に適しています。

溶接方法の比較

上記の溶接方法の特徴を、以下の表にまとめます。

特性 アーク溶接 TIG溶接 MIG溶接
溶接品質
溶接速度
自動化適性
適用板厚 厚板向き 薄板向き 幅広い
適用材料 鋼材中心 幅広い 幅広い
屋外作業適性
初期コスト
ランニングコスト
技能要求度
作業環境

◎:優れる、○:良好、△:普通

溶接方法の選定ポイント

溶接方法を選定する際は、以下のようなポイントを考慮する必要があります。

  1. 溶接する材料の種類と板厚
  2. 要求される溶接品質と外観
  3. 生産効率と自動化の必要性
  4. 作業環境(屋内、屋外、風雨の影響など)
  5. コストと設備投資の余力
  6. 溶接技術者の技能レベルと教育体制
  7. 溶接部の後処理(スラグ除去、グラインダー仕上げなど)の必要性
  8. 溶接姿勢や溶接位置の制約
  9. 品質管理体制と検査方法
  10. 安全性と環境対策

これらのポイントを総合的に判断し、最適な溶接方法を選定することが重要です。また、溶接方法の特性を理解し、適切な溶接条件や施工方法を設定することも重要です。

今後の展望

溶接技術は、次のような方向に発展していくと予想されます。

  1. 自動化・ロボット化のさらなる進展
    • 溶接ロボットの高度化と普及拡大
    • センシング技術やAIを活用した自動化・無人化
  2. 新材料(高張力鋼、複合材料など)への対応
    • 難溶接材料に適した溶接方法の開発
    • 異種材料接合技術の高度化
  3. 高能率化・高品質化を実現する新しい溶接プロセスの開発
    • レーザー溶接やFSW(摩擦攪拌接合)の適用拡大
    • ハイブリッド溶接(レーザー+アークなど)の実用化
  4. IoTやAIを活用した溶接品質の管理と予測
    • 溶接条件や品質データのリアルタイム収集・分析
    • 溶接欠陥の予兆検知と予防保全
  5. 環境負荷低減と安全性向上
    • 低ヒューム・低スパッタの溶接材料の開発
    • 自動化による作業者の負担軽減と安全性向上

これらの技術動向を踏まえつつ、適切な溶接方法を選定・適用することが、製品の品質と生産性の向上につながります。また、溶接技術者の育成と技能伝承、品質管理体制の強化も重要な課題です。

まとめ

アーク溶接、TIG溶接、MIG溶接は、それぞれ特徴や適した用途が異なる主要な溶接方法です。アーク溶接は、厚板の溶接に適し、屋外作業に強い特性を持ちます。TIG溶接は、高品質な溶接が可能で、薄板や様々な材料の溶接に適しています。MIG溶接は、高速・高能率な溶接が可能で、自動化に適した特性を持ちます。

溶接方法の選定には、材料や板厚、要求品質、生産効率、作業環境、コストなど、多岐にわたる要因を総合的に考慮する必要があります。また、自動化・ロボット化や新材料への対応、新しい溶接プロセスの開発など、技術動向にも注目が必要です。

溶接は、ものづくりに欠かせない重要な技術です。アーク溶接、TIG溶接、MIG溶接の特性を深く理解し、適材適所で活用することが、製品の品質と生産性の向上につながります。溶接技術の発展とともに、より高度で効率的な接合技術の実現が期待されます。溶接技術者の育成と技能伝承、品質管理体制の強化にも継続的に取り組むことが重要です。

架台の製作依頼をご検討ですか?

まずは無料見積りから!