最終更新日時: 2024/04/19 08:06
鉄骨構造物や鋼製部材の防食処理として、亜鉛めっきが広く用いられています。亜鉛めっきには、溶融亜鉛めっきと電気亜鉛めっきの2種類があります。どちらも鋼材の表面に亜鉛の皮膜を形成することで、鋼材を腐食から守ります。しかし、それぞれの方法には特徴や用途に違いがあります。この記事では、溶融亜鉛めっきと電気亜鉛めっきの違いについて詳しく解説します。
溶融亜鉛めっきは、鋼材を溶融した亜鉛の中に浸漬することで、鋼材の表面に亜鉛の皮膜を形成する方法です。溶融亜鉛めっきの主な特徴は以下の通りです。
溶融亜鉛めっきは、厚くて耐久性の高い皮膜が得られるため、屋外の鉄骨構造物や橋梁、道路設備など、過酷な腐食環境下で長期の防食性能が要求される用途に適しています。
電気亜鉛めっきは、電気分解を利用して鋼材の表面に亜鉛の皮膜を形成する方法です。鋼材を陰極、亜鉛を陽極とし、電解液中で電流を流すことで、鋼材の表面に亜鉛イオンが析出します。電気亜鉛めっきの主な特徴は以下の通りです。
電気亜鉛めっきは、薄くて美しい皮膜が得られるため、自動車部品や家電製品、建築金物など、外観が重要で比較的緩やかな腐食環境下で使用される用途に適しています。
溶融亜鉛めっきと電気亜鉛めっきの主な違いは、以下の表にまとめられます。
項目 | 溶融亜鉛めっき | 電気亜鉛めっき |
---|---|---|
皮膜厚さ | 厚い(50〜150μm) | 薄い(5〜20μm) |
皮膜の特性 | 硬く、耐摩耗性に優れる | 均一で、外観が美しい |
密着性 | 合金層を形成し、密着性が高い | 皮膜と鋼材の密着性は比較的低い |
適用可能な部材サイズ | 大型部材に適用可能 | 小型部材に適している |
適用可能な部材形状 | 比較的単純な形状に適している | 複雑な形状にも適用可能 |
コスト | 比較的安い | やや高い |
主な用途 | 屋外の鉄骨構造物、橋梁、道路設備など | 自動車部品、家電製品、建築金物など |
溶融亜鉛めっきと電気亜鉛めっきは、それぞれの特徴を活かした用途に適用されています。防食性能や耐久性が重視される場合は溶融亜鉛めっきが、外観や部材の形状が重視される場合は電気亜鉛めっきが選択されます。
亜鉛めっきを選定する際は、以下のようなポイントを考慮する必要があります。
これらのポイントを総合的に判断し、最適な亜鉛めっき方法を選定します。また、亜鉛めっきの仕様(皮膜厚さ、後処理方法など)も、用途に応じて適切に設定する必要があります。
近年、亜鉛めっきの技術は著しく進歩しています。例えば、溶融亜鉛めっきでは、高耐食性の合金めっき(Zn-Al合金めっきなど)の開発が進められています。また、電気亜鉛めっきでは、高速析出が可能な電解液の開発により、生産性の向上が図られています。
さらに、亜鉛めっきと他の表面処理技術を組み合わせることで、防食性能や外観、機能性を向上させる取り組みも行われています。例えば、亜鉛めっきの上に塗装を施す「ダプレックスシステム」は、亜鉛めっきの防食性能と塗装の美観を兼ね備えた表面処理方法として注目されています。
これらの新技術の開発により、亜鉛めっきの適用範囲がさらに拡大することが期待されます。設計者や施工者は、亜鉛めっきの基本的な特性を理解するとともに、最新の技術動向にも注目し、最適な防食方法を選定することが重要です。
溶融亜鉛めっきと電気亜鉛めっきは、どちらも鋼材の防食に広く用いられる表面処理技術です。溶融亜鉛めっきは、厚くて耐久性の高い皮膜が得られるため、過酷な腐食環境下での長期防食に適しています。一方、電気亜鉛めっきは、薄くて美しい皮膜が得られるため、外観が重要で比較的緩やかな腐食環境下での使用に適しています。
亜鉛めっきの選定に際しては、使用環境や要求性能、部材の形状、コストなどを総合的に考慮し、最適な方法を選ぶ必要があります。また、高耐食性合金めっきやダプレックスシステムなど、新しい技術の動向にも注目することが重要です。
鋼構造物や鋼製部材の防食は、構造物の安全性と長寿命化に直結する重要な課題です。溶融亜鉛めっきと電気亜鉛めっきの特性を理解し、適材適所で活用することが、優れた防食性能の実現につながります。亜鉛めっき技術の進歩とともに、より効果的な防食方法の選択肢が広がることが期待されます。